本年度に入って3回目の地域ISPの集いは、長野市ホテルサンルート長野で「地域ISPの集いin長野」として、2008年月15日に開催しました。
12:30から、地域ISP部会高橋部会長の挨拶で始まりました。今回の集いは講演を主体に行いました。主な講演の内容は次のとおりです。
I 「三年後にISPは何を売っているだろうか 〜ネットの進化、ビジネスの進化、業態の進化〜」(早稲田大学大学院国際情報通信研究科客員准教授 境 真良氏)
1)商売の基本は「欠乏」を売ることである。
- 欠乏=要望である。欠乏していないものは売れない。
実際に「欠乏」していることと「欠けていると思われるもの」の見極めが大事であり、見込み違いがある。そのためには「主観」が大事である。
2)ネットの進化
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Web1.0はリンク集である。日曜大工でセメントが必要なった時にはセメントの流通情報を知らなくてもWebで購入できる。
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これは流通構造の解体である。リンク集のイメージを実現したのが「東急ハンズ」であり、普通売っていないような物も売っている。また、「楽天」の出現により、小さなお店もWebをとおして需要を獲得することが出来るようになった。この様にしてネットが生活必需品になり、顧客の声を反映したメンテナンスが重要になった。これを自動的な仕組みにしたのが、Web2.0である。
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映像コンテンツを見ると、YouTubeやニコニコ動画はストリー商品をコミュニケーション商品に変質させた。色々なサービスを繋ぐ機能としてOpen
IDがある。NGNもSip IDをCommon ID化する狙いがある。
3)消費の文脈
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問題はいかに儲けるかである。楽天は儲かるがTVの映像配信は儲からない。サービスに対してお金を払う習慣があるかが大事である。お金を払うのは必ずしも利用者とは限らない。MSの場合はPCメーカであり、Googleの場合は広告主である。お金を回収する仕組みが大事である。
- 「モノ」には魔力がある。勝手に増えないし、お金を払う習慣がある。
4)ビジネスの進化
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経済の発展は「欠乏」を、物の欠乏→生産の欠乏→流通の欠乏→認識の欠乏→関係の欠乏へと遷移させた。関係の欠乏がWeb空間の経済価値を生み出した。これがWeb2.0である。Webは全自動関係生成機である。
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コンテンツの進化は編成の進化である。ユーザが編成できるように進化している。ここで重要になるのが「ID」管理である。誰がIDを管理するのかの競争になっている。NGNはID管理をネットワークで行うべきだと主張している。
5)選択と集中
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ISPのIPアドレスの販売と回線使用料回収(代行業)である。IPアドレスは普及しコモディティ化している。
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利用者はIPアドレスが欲しいのでなく、何が出来るかである。サービスと組み合わせることで解決できる可能性がある。例えば帯域保証50M、ニコ動プレミヤム資格付等々サービスとのパッケージ化が考えられる。
6)業態の進化
- 地域ISPは当該地域に関連する事業との兼業が今後考えられる。例えば、地域振興NPO
兼ISP、シルバーサービス兼ISP等々が考えられる。これは、カネボウが紡績からスタートして化粧品の会社になったと同様な進化である。
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兼業によりISPの占める割合が少なくなってもISPを続けることにより利用者との関係は維持できる。この様な方向性をめざすべきである。
II 「農業におけるインターネット活用事例のご紹介 〜信州ユニバーサル・ブロードバンドサービスによる、農業・農村振興をめざして〜」((株)長野県共同電算 開発企画部長 佐藤 千明氏)
1)経緯・特徴
- 長野県は日本有数の有線放送が普及している県で、この有線放送網を利用しネットワーク構築している。
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また、伊那地区では日本最初のADSLを使用した所であり、平成9年にはADSLを有線放送網に導入してブロードバンド化を実現した。
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平成10年から農業情報システムのサービスを開始した。また、平成13年には中継回線にダークファイバーの利用も行っている。平成15年にはIPTV映像配信の実験を開始するなど先進的なネットワークを構築している。
- この成果が認められ平成17年には日経地域情報化大賞2005でインターネット協会賞を受賞している。
2)事業理念
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農業・農村情報システムをベースとして生活に密着した身近な情報による地域毎のネットワークコミュニティを構築し、豊かで活力ある農業・農村・地域づくりをめざしている。
3)農業情報システムの概要
主なサービスは次のとおりである。
- 生産技術情報・・農業技術情報、栽培マニュアル、農業気象情報等
- 資源有効活用・・農用地利用調整、農業機械利用調整等
- 地域連携、組合員情報・・農業資材情報、農産物の産直電子モール等
- マーケット・流通情報・・全国市況、県内農産物市況等
- 農家経営支援・・農業簿記帳支援、青色申告支援等
- 生活福祉情報・・賃貸住宅物件検索、健康管理・高齢者福祉情報等
- 情報活用能力向上・・パソコン研修
4)今後の課題
- 中山間地住民へのBBサービス提供でデジタルディバイドの解消
- ISP事業からASP事業への脱皮
- NGNへの取組み
III 「信州大学インターネット大学院について」(信州大学大学院教授 不破 泰氏)
1)インターネット大学院の状況
- 2002年に開校した。文部科学省の基準をクリアした通学制と同等の単位が認められている。
- 日本で最初に開校した工学系のインターネット大学院である。
- 現在180名の学生が在籍している。開校から5年間で365人学んだ。
- 経費は入学金が30万円、1学年50万円の2学年制の計130万円である。
2)インターネットと教育
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大学に社会から求められているものは、社会人のリカレント教育である。信州大学では10年前からインターネット教育の研究を行ってきて2002年に開校した。
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バーチャル教育だけでなく実習も合わせて行えるように工夫している。実験用キットを配布して使用している。また、大学の設備に接続することやWebに計測機能を用意して実習を支援している。
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就学期間は通常2年間のところを、長期終了が4年間、早期終了が1〜1.5年と習熟度に合わせて期間を選べるように柔軟性を持たせている。
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従来の授業より効果的に復習・予習できるように教科書はWeb上のコンテンツとし展開している。製本された教科書と同様にマークしたらメモを書き込むことが出来るようにしている。100種類以上の教科書を用意し、日本語以外に英語版と中国版も用意している。また、受講者の制約を無くすために、視覚障害者向けに音声でサポートした教科書も用意している。
- 学習は必ずしも、インターネットだけでなく、希望者は大学にきて勉強することも可能である。
3)受講生の状況
- 受講者数は、開校時期は話題性もあり80名と多かったが、その後の平均は40名〜50名で推移している。
- 年齢は20代〜60代で、30代〜40代の働き盛りが8割を占めている。
- 居住地は北海道から沖縄まで分布している。関東が6割である。
- 勉強の時間帯は、14時〜16時と22時〜24時画ピークになっている。
4)インターネット教育の課題等
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何時でも、何処でも学べると言うことは何時でもでもサボれることを意味している。学習の意欲(モチベーション)が低下と貴族意識の低下が課題である。入学して卒業するのは15%程度である。この対策としては学生に対するサポートが重要である。次のようなサポートを行っている。
- ログ情報を管理し、学習の進捗状況を把握し、学習の遅れが目立つ場合はメールを出す。
- 学習には直接関係無い、大学の動き等のニュースレターを定期的に送信する。
- 掲示板を用意し学生間の意見交換を行えるようにしている。
- 入学前に個別面談を行い、当人に合った学習計画の作成を支援している。
IV 「垂直統合か水平分散か? NTT村の解体を問う −日本沈没のキングストン弁を奪回するための試論 ―」(東京めたりっく通信株式会社 元社長 東條 巌氏)
1)はじめに
- 「東京めたりっく通信物語」が昨日出来上がった。参考に読んでほしい。
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ADSLのビジネスモデルを長野で作ったのは日本本土決戦の地であり日本の「へそ」であるからである。「神州天馬侠」の心境であった。メタルで電話(通信)をやると言う通信の原点の気持ちがあった。
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新しいことは誰かがやらなければならない。ブロードバンドを推進したADSLサービスや光ファイバーの開放は少数の人々により実現した。もし、ADSLサービスが開始されなかったら日本の通信はどうなっていただろうか。
2)世界で尊敬を失いつつある日本
- 日本は世界の尊敬を失いつつある。世界の関心の対象とはなくなりつつある。
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白人と対等にやっていけるのか。戦後、日本が作り出し物はハードウェアだけに見える。人は物だけでは満足しない。軍事力、宗教、文化、教育等と言ったバックグランドは500年以上にわたる侵略の歴史を持つ欧米流のネットワークが規範になっている。この強さは製品の良さや品質では及ばない。
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日本は一指たりとて入り込めてない。その証拠に、インターネットの活用に何ら新機軸を打ち出せていない。オリジナルテイがない。ただ一つ、BBの使いやすさや環境が良くなってきたので、ここで何かを生み出さないと永久にだめになる。戦っていくことを考えないといけないのではないか。
3)日本沈没のキングストン弁とは
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通信と放送の再編により日本市場だけでなく世界市場に進出することが大事である。物だけでは心は通じない。あと20〜30年経てば日本だけしか作れない物はなくなる。
- NGNのベースアーキテクチャはシスコ製である。その詳細はブラックボックスである。インターネットの次に来るものはNGNであると言うことは不遜である。
- NGNで大事なのはソフトウェアである。幸いにもその基盤はある。
- 欧米には無い、アジア的なもの、仏教等の育成が重要である。
4)垂直統合は衰退の道、水平分散こそが世界に繋がる
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日本は戦争中の総力戦の垂直統合体制がそのまま残っている。日本の繁栄は冷戦下の保護による一時的な幸運である。
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日本型中産階級は一度解体して、水平展開型の新しい型を追及する必要がある。この過程で失敗しても将来の糧になる。
5)村社会の典型としてのNTT
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我々の社会は一言で言えば「村社会」である。村社会とは自給自足の社会である。囲いを作り「あと何人食えるか」という発想の社会である。戦後の日本はこのような発想のリーダによって治められていた。この村社会の日本が戦後工業化により繁栄できたのは非常に幸運であった。
- 「食い方は無限だ」という発想が世界の主流である。
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NTTは政治により公共財と判断された、公共財であれば県単位に分社化するべきであった。NTTは民営化をし、その後3分割しただけである。その背景には村社会の働きかけがあったはずである。ISDNで光ファイバー網を作りインターネットはこれで良い、自分たちの小さい幸せさえ守れれば良いと言う発想である。これこそ村社会の発想である。
6)ISPは何をなし得るのか?
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ISPは「繋げ屋さん」である。インターネットは村社会の世論の作り方とは異なる世論の作り方ができるのではないのか。
- 但し、世界に繋がる世論でければならない。
7)ささやかな提案
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日本の英語教育は俳句や和歌と同様に教養として明治以来行われてきた。読み書きは出来てもコミュニケーションを行うのが困難である。英語は語彙の量が大事である。語彙の量が多ければコミュニケーションは取れるようになる。
- 学校英語と塾英語を超えた英語教育をISPが先導できないか。
8)最後に:教育という迷妄
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近代は「生」を大事にする歴史であった。「生」を大事にするあまり、禁煙・・・規制を設け過ぎた。「生」を大事にするならほっておいて欲しい。この自由から色々なことが出来る。
上記の講演以外に、イー・ネットアクセス(株)の「イー・モバイル社のモバイルブロードバンド革命」、総務省電気通信事業紛争処理委員会事務局の「電気通信事業紛争処理委員会の活動について」さらにアライアンスセミナーとして2社の講演がありました。
18:50に地域ISP部会鎌倉副部会長の閉会の挨拶で盛会のうちに終了しました。
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